活版印刷に魅せられて… 気になる印刷方法を試してみた
名刺のデザインに触れる機会がありまして、様々な印刷や加工を目にしました。
そんな中で、とても惹かれたのが「活版印刷(レタープレス)」で制作されているものでした。
今回は、印刷面のデータ作成時のデザインではなく、印刷時に必要になるデザインについてお伝えしようと思います。
活版印刷を利用して印刷をしてみたい!
【活版印刷(レタープレス)】とは
凸版印刷の一種で、凸部分にインクをつけ、強い圧力で紙に転写する印刷方法です。
現在一般的に使われる印刷方法であるオフセット印刷のような鮮明な仕上がりではなく、印字部分の紙の凹みやインクの滲みによりレトロな風合いに仕上がります。
とはいっても、弊社の現在の名刺にはコスト的にも記載内容的にも適しているとは言えない。
もう少し内容が少なくシンプルでないと見づらくなってしまい、名刺としての機能が果たせない。
活版印刷の特徴も活かせない。
いつか作りたいと夢見ながら、まずは見本帳でも買って心を満たすことにしました。
ネット検索して以下の見本帳を購入してみました。
活版印刷で主流の見本帳のようです。

凹みの美しさ。2.5ptの細かい文字、0.25ptの細いラインまでこんなにきれいに…
さらに実際に印刷してみたい思いが募るばかり。
引き続き、何か適したアイテムは無いか無いかと探していたところ、
活版印刷でつくる「角丸のコースター」を発見しました。
これならアプリのアイコンに見立てていい感じのアイテムが作れそうです!
個人的なものや架空のものはブログで紹介できるように作りづらかったので事前に相談し、
弊社提供のアプリ「Carpon」のノベルティという設定で作らせてもらうことになりました。
やりたい印刷技法を盛り込むのが目的のため、コストなどは度外視。
そのため、個人的に作らせていただきます!!
こんな印刷技術を盛り込みたい
● 活版印刷(レタープレス)
今回の主目的。細かい文字とロゴやマークなど比較的広い面への加工の両方を見てみたい。
● 浮き出し(エンボス加工)
逆に浮き出させてみたらどうだろう?
● 小口染め(エッジカラー)
以前からやってみたいと気にかけていた技法。おしゃれなので、チャンスがあればやってみたい。
【浮き出し加工(エンボス加工)】とは
凹状の型と、凸状の型の間に紙を置き、圧を加えて絵柄を浮き上がらせる加工。
裏面にも凹みがでますので、それを活かして両面印刷のデザインをするのもすてき。
【小口染め(エッジカラー)】とは
印刷物の裁断面(側面)に色付けする染め技法。
印刷面に枠をつけるのとは違った風合いを出すことができます。厚みのある用紙の場合、より効果を感じられます。
用紙によっては、印刷面への滲みがでますが、それも風合いとしてあえて楽しむのも魅力。
上記を盛り込むためにデザイン制作と用紙、インクの選定を行います。
とりあえずデザインしてみた
角丸のコースターという仕様で作ると決めたので、表面はアプリアイコンのデザイン。
裏面は、一応ノベルティという体裁なので、アプリの説明と誘導(URL)を記載してみました。
本来はQRコードを載せたりしますが、今回は鮮明な印刷を求めていないので、読み取りできない可能性もあるのでURLを記載。
これで、表面で「ベタ印刷」と大ぶりなパーツへの凸凹、裏面で細かい文字の活版印刷を試すことができます。

仕様確定するまでの試行錯誤
全てをてんこ盛りに盛り込みたいのは山々ですが、同じアイテムへの併用が向かない・できない内容もありました。
わからないことは印刷業者さんに問合せし、選定していきました。
用紙の選定
今回、小口染めを効果的に見せたいため、側面の色付けが映えるように、ある程度の厚みのある用紙を選定したいと考えました。(一応コースターということもありますし)
活版印刷の凹みを表現するには、厚みに加えて紙の柔らかさ(密度の低さ)が大きく影響するそうです。
今回はあたたかい風合いが似合うと感じたので、青白い真っ白よりは、アイボリーというか生成色っぽい用紙にしたい…
検討の結果、上記を満たす「クッション紙 0.8mm」という用紙に決定!
ポイント:
この用紙にすることでの注意点もあります。
オフセットのベタ印刷は、多少のムラ、ピンホール(白い点状の抜け)が発生しやすいため、向いていません。
しかし、今回求めている「あたたかみ」のある風合いにはプラスになると感じたので問題とは捉えず、この用紙に決定しました。かすれた感じやムラが、ガサガサっとしたいい感じになるのですよ。(期待)
エンボス加工を取り入れるかどうか
表面の白色部分を凹ませようと検討していましたが、これは印刷部分じゃないのでグリーン1色の活版印刷では再現できないことに気がつきました。
通常のオフセット印刷にてグリーン1色で印刷し、さらに凹ませたい白色部分の版をもうひとつ用意し、空押し(デボス加工)することでの再現となります。
【空押し(デボス加工)】とは
凸版にインクをつけずプレスし、凹凸だけをつける加工。
凹凸だけで表現するさりげなさがありながら、印象的な仕上がりになるのが魅力的。
ポイント:
オフセット印刷に同じ版で空押しする場合、多少ずれる可能性があるそうです。
これも「味」と感じたので今回は問題と感じませんでしたが、精緻さにこだわる場合はご注意ください。
空押しでひとつ版が追加になるなら、違う技法を取り入れられないか?
ならば逆に浮き出させるのはどうだろう?
結論からすると、
今回のデザインでは効果的ではないと判断し、エンボス加工は見送りとしました。
エンボスは裏面に凹みができますので、これを裏面にうまく取り入れられるデザインを行う機会があったら使いたいと思います。
エッジカラーをどうしても入れたい
素敵な名刺デザインで活版印刷と合わせて魅力的だったのが、小口染め(エッジカラー)でした。
そのため、何としても今回実現したい。
小口染めは、印刷物の側面からインクを吹きかける都合上、断裁部分に活版印刷による凹みがあると、加工ができないことが判明。
多少ならできるそうですが、表面のクルマイラストの白部分は広域なので、併用は不可となりました。
でも小口染めは外せない!
ということで、クルマ部分の凹みを無しにし、「Carpon」の文字のみを凹ませることで解決させました。
もう表面の活版印刷は諦めて、オフセット印刷のみにするか迷いましたが、裏面で予定している細かい文字だけではなくロゴやマークなど比較的広い面との両方の活版印刷を見てみたい、という贅沢使いで残すことにしました。
色の選定
表面、裏面、側面ともに、このアプリのブランドカラーであるグリーンを予定していました。
今回お願いする業者さんでは、小口染めに使用できるカラーが決まっており、こちらから具体的なインクを指定することができませんでした。そのため、側面のカラーはブランドカラーと近い色を選ぶことになりました。
少し明るくなりますが、きれいなグリーン系インクがあったので、即決。
そうなると、表面と裏面を側面に近い色にするか、側面との色の統一はやめてこのアプリのブランドイメージとして使っているカラーにするか、選択することになりました。
今回、特にベタ印刷になる表面と側面は同じ色にしたいと考えました。
その方が表面の延長で側面に色がついている感じで一体感が効果的になるのではと思ったためです。
そのため、表面は側面の色に合わせることとし、ブランドカラーよりは少しだけ明るいグリーンを表面のインクとして選択。
通常なら裏面も同じ色にするところですが、裏面は細かい文字があるので少し濃い本来のブランドカラーのグリーンを選択しました。
色の違いを比較したいという欲も大きく作用し、決定。
これで全てが決まりました!
まとめるとこちら。
<用紙>
クッション紙 0.8mm
<表面>
オフセット印刷1色(インク:DIC 177)※グリーン部分
活版印刷1色 ※「Carpon」文字部分
<裏面>
活版印刷1色(インク;DIC 2579)
<側面>
エッジカラー加工(インク:ターコイズ)
入稿が終われば、到着まではドキドキして待つだけです。
印刷物は、想像していた通りのものが仕上っているか、もし違ってもどんなふうに違いが出たか、到着したアイテムを手に取るのが一番楽しみな時です。
いろいろ加工を盛り込んだので、8営業日後の発送になりました。
仕上がりました!
新型コロナウィルスで大変な時でしたが、予定通り到着しました。
印刷業者さんオリジナルの小箱に入れてくださっていて、仕上がった印刷物を大切に扱ってくださっているのがわかる丁寧な梱包にも感激。
仕上がったコースターはこちらです。

鮮やかできれいなグリーン…

オフセット印刷と活版印刷の空押しをした文字部分の凹み、全くズレてないです…
期待通りの紙質。カサカサっとした表面にインクがのることで、あたたかい風合いも思った通りに…
表面のベタ印刷と側面の小口染めを同じカラーにした統一感により、側面までが表の一部のような一体感…
置いてみた時、側面が白くないってこんな感じになるんですね。ベタ印刷と併用してよかった…!

裏面の活版印刷も期待通りです…
細かい文字もしっかりきれいに印刷されていて、凹みとかすれが醸し出すレトロ感がすてき…
活版印刷の方がかすれが出やすいようです。比較できてよかった…!
小口染めの「にじみ」はこんな感じになるんですね。
裏面に縁取をいれてあるみたいで、かわいい仕上がりです。
大満足です…
最後に:これもやってみたかった
できればまっさらな部分に空押しで凹み加工だけをつけてみたい思いもありました。
しかし、今回はスペース的に効果的に配置できる部分がなかったので別の機会へ見送り。
エンボス加工も含めて、最大限に活かせる時に是非やってみたいと思います!
おまけ
おうちで活版印刷ができるツールも何種類かありました。
柄やアルファベットなどの版が、ツールに付属していたりするようです。
最初はこちらをやろうかと思ったのですが、実際検討してみると細かな日本語文字も試したかったので、版を自作するのは難しく、版も印刷もプロにお任せすることにしました。
ネットで、版だけ作ってもらえるサービスもあるようだったので、そちらも気になります。
印刷に興味のある方は、印刷面のデザインだけではなく、用紙・技法、インクなどにもこだわって追求してみてください。
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今回作ったコースター。
小ロットとはいえ、ひとりで堪能するには山盛りあるので社内で欲しい方にお裾分けして回ろうかと思います。
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